当院の藤吉兼浩(ふじよしかねひろ)医師の研究が朝日新聞で紹介されました。以下新聞記事からの引用です。
脊髄(せきずい)は背骨の中を通る手の指ほどの太さの中枢神経。傷つくと、その部位から下に脳からの指令が伝わらなくなり、下からの信号が脳に届かなくなる。
脊髄損傷で起きる主な障害には、▽手足を思うように動かせなくなる運動まひ▽熱さや痛さなどを感じなくなる感覚障害▽体温調節がしにくい、立ったり座ったりしたときに血圧が低下する、などの自律神経障害▽排尿や排便がうまくできない排泄(はいせつ)障害がある。
傷ついた脊髄の部位によって障害の出方は異なってくる。一般的には損傷の部位が低いほど、残る機能が増えるとされる。また、損傷した程度によって障害の重さは変わってくる。軽ければ、直後は障害が出ても、機能が回復する可能性はある。
連載で紹介した埼玉県の地方公務員池田歩(いけだあゆむ)さん(23)は、首の骨である頸椎(けいつい)を骨折し、脊髄の一部の頸髄を損傷した。このため、頸髄がつかさどる手足の運動機能などに障害が残った。
国立病院機構村山医療センター(東京都武蔵村山市)整形外科の藤吉兼浩(ふじよしかねひろ)医長によると、国内では毎年約5千人が新たに脊髄損傷になるとみられる。主な原因は、転落事故や交通事故のほか、スノーボードやスキー、ラグビー、柔道などのスポーツによる外傷だ。
近年は高齢者が自宅の中で転倒するなど、身近な場所で起きるけがでなるケースも増えているという。加齢に伴い、首の神経の通り道が狭くなる「頸椎症性脊髄症」などがあれば、比較的軽いけがでも脊髄を損傷する危険が高まる。
池田さんのように骨折した場合は、骨を固定する手術が選択されることもある。今のところ、損傷した脊髄の再生に有効な治療法はないとされている。
注目されているのが、細胞移植による脊髄の再生だ。iPS細胞を元に作った神経幹細胞や、骨髄から採取した間葉系幹細胞を移植し、失った神経を再生させる治療法の研究が進められている。
藤吉さんは「移植などの将来的な治療につなげるためにも、残った機能の向上と、関節が動きにくくなる『拘縮(こうしゅく)』などの予防を目指して、受傷後の早い段階から、適切なリハビリテーションを続けることが重要だ」と話す。(伊藤綾)