最先端医療
当院整形外科医長の金子慎二郎医師と当院共同研究員張亮医師(慶應義塾大学リハビリテーション科所属)が、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授と慶應義塾大学医学部整形外科学教室の中村雅也准教授との共同研究で行った脊髄損傷に対する再生医療に関する研究が、NHKワールド(NHKが行っている国際放送)で2014年8月5日(火)に放映された番組(iPS Cells: On The Verge of Clinical Application-The Current Status of iPS Cell Studies-)中で紹介されました。
脊髄損傷後の様々な機能障害の主原因は、軸索(脳から四肢などへの命令を伝えるワイヤーの様な部分)の障害(切断)と考えられていますが、本研究で金子医師と張医師らは、軸索再生を促進する手段と再生した軸索を再度、ネットワーク化させる有効な手段を見出しました。
脊髄は中枢神経系に分類されますが、末梢神経の軸索は切断されてもある程度の再生能力を有するのに対して、中枢神経の軸索は切断されると全く再生しないことがわかっています。
その理由の1つとして、脊髄の損傷部に軸索の再生を阻害する物質が存在することがわかってきており、金子医師らは、損傷部の瘢痕組織中に存在する軸索再生阻害因子であるSemaphorin3Aという物質に注目し、Semaphorin3Aに対する選択的な阻害剤を開発しました。この阻害剤の投与によって、ある程度の軸索の再生が認められましたが、得られた運動機能の改善は限られたものでした(論文は2006年に国際科学雑誌Nature Medicine誌に掲載)。
金子医師らは、その理由の1つとして、再生した軸索が十分にネットワーク化されていなかった可能性を考え、Semaphorin3A阻害剤投与に適切なリハビリテーションを併用することによって、再生軸索のネットワーク化の促進とより良い運動機能の改善が得られるのではないかと考えました。そこで慶應義塾大学のリハビリテーション科に所属する張医師らと共同研究を行い、Semaphorin3A阻害剤投与に張医師らが考案した適切なリハビリテーションを併用することで、仮説通り、再生した軸索のネットワーク化の促進と、より良い運動機能の改善が得られることを見出しました(論文は2014年に国際科学雑誌Molecular Brain誌に掲載)。また今回の研究では、Semaphorin3A阻害剤の投与方法に関しても、臨床応用を行う際に有用と考えられる特殊なシリコン製剤(添付画像参照)を開発し、その有効性を見出しました。
金子医師らは、現在、これらの治療法の臨床応用に向けて、慶應義塾大学の岡野教授、中村准教授らと更なる研究を行っています。