最先端医療
村山医療センター
整形外科医長
八木 満
適応
1.初潮前、または初潮後1年以内
2.側弯が25-40度
3.これまでにほかの治療を行っていない。
というのが現在のアメリカ側弯症学会の適応基準です。
装具の治療の有効性に関する研究で常に問題になるのは、装具を本当に患者さんたちが着用しているかどうかがわからないことと、同じ患者さんが装具をしなかった場合にどうなるかわからないことです。このため、装具療法の有効性についてはながらく明らかでなかったのですが、2013年アイオワ大学のDr.Weinsteinが発表しました世界中の多施設におけるランダム割り付け試験の結果によりますと、変形が小さく、まだ成長期である患者さん達にBoston Braceが有効であるという、信頼できる報告がNew England Journal of Medicineという世界で最も権威ある医学学術雑誌に掲載されました。この報告によりますと成長期のお子さんで、16時間以上装具を付けた場合に手術を回避できる可能性は72%でした。一方で経過観察のみを行った場合には42%と唯に手術になる確率が高かったということです。当院でも特発性側弯症のお子さんに関して同様の適応で装具療法を行っています。
特発性側弯症に対する装具療法は古くから試みられています。これまでに考案された代表的な装具に
1. Milwaukee Brace
2. Boston Brace
があります。
Milwaukee Braceは1946年にミルウォーキーの医師BlountとSchmidtによって開発されたコルセットで、おもに骨盤と首を固定し、側弯をコントロールします。1日23時間以上使用することを前提に開発されていますが、非常に精神的、また肉体的にストレスであり、なかなか、育ち盛りの多感な時期のお子さんにはつらい治療です。
Boston BraceはボストンにあるHarvard大学のグループに行って1970年代に開発されたコルセットで、脇の下から、骨盤までを固定します(図1,2)。ブラスチックのコルセットですので、脇の下までとは言え、付け続けるのにはかなりの忍耐が必要になります。
両者の適応の違いは側弯の最も左右に突出している頂椎の高さによります。この頂椎が第6胸椎より頭側ですと、脇の下から逆側にカーブを矯正したとしても、効果が得られないのです。そのような方にはMilwaukee Braceが適応となります。
また、すでに初潮を迎え1年以上経過している場合には、側弯が小さく25度以下であれば、付け続ける必要がないこと、一方で、側弯が大きく45度以上であるような場合に付け続けても側弯症の進行を防止できないこともわかっています。この様な場合には手術をお勧めしています。
これらの標準的装具に加えて、最近は
3. SPoRT(Symmetric patient oriented Rigid 3 demensional: )3次元的にカーブを矯正する新しい装具
4. Charleston Brace: 夜間だけ装着する(逆向きのカーブにしたコルセットをつける)装具
5. Providence Brace: 夜間だけ装着する(過矯正位にしたコルセットをつける)装具
6. Spine Cor: 3点固定の原理でバンドで固定する。
といった、あらたな装具がアメリカやヨーロッパから発売されています。
しかし、現状ではその効果はどれも確立されていません。
特発性側弯症に対するリハビリテーションは主に脊椎の可動性を向上させることで装具を使用した際に装具の中での矯正位を改善することを目的としています。
一方で可動性の向上は側弯症自体の進行のリスク因子ともなりえるため、脊椎の可動性の向上を目的としたリハビリテーションのみのでは治療として十分でない可能性があります。SOSORT (Scientific Society on Scoliosis Orthopedic and Rehabilitation Treatment)というヨーロッパの側弯症の学術的研究を行っている団体が2012年に、これまでに報告された側弯症に対するあらゆる論文の結果を検討しまとめて報告しています。この報告を見ますと、2003年から2010年までに報告された側弯症に対するリハビリテーションに関する論文203本のうち調査に値する66本の結果から、Physiotherapeutic Specific Exercise(PSE:側弯症に特化したリハビリテーション)を側具療法と合わせて行うことには一定のエヴィデンスがあるということです(エヴィデンスレベルII)。ただ、PSEといっても施設により方法も異なり、いったいどのようなリハビリ療法が装具と組み合わせたときに本当に効果があるのかはまだ検討の余地があるようです。このため当院では頻回の通院の負担も考慮し、特発性側弯症で装具療法を行っている方にリハビリテーションをお勧めはしていません。
整体(manipulation)に関しましても同様の報告をみますと、68本の論文が発見されたものの、検討に値する論文はわずか13本で、このうち整体のみで治療した患者に対する報告は数本しか存在しないということでした。これらの論文はいずれも学術的に不十分で有効性を検討するのは難しいということでした。このためエヴィデンスレベルはⅤという低いものとなっており、従来の整体やホメオパチー(自然治癒力を生かした治療)は特発性側弯症の治療には推奨されないようです。私どもが所属いたしますアメリカ側弯症学会(Scoliosis Research Society: SRS)の本年発表されました公式見解もやはり同様です。従いまして当院における治療は学術的根拠に基づいて行っているため、整体は現状では推奨していません。
当院では側弯症のお子さんが通学後にご受診できるよう、隔週金曜日の夕方15時から側弯症の専門外来を行っています。ご来院の際にはお電話でのご予約が原則必要となります。どうぞご利用ください。直接ご来院なさっても診察することは可能ですが、お時間をいただく場合がございます。どうぞご了承ください。