骨粗鬆症は『骨の強度の低下によって骨が弱くなりまたは脆(もろ)くなり、骨折の危険性が高まる骨の病気』です。 高齢化社会の到来に伴い、わが国の骨粗鬆症の患者数は年々増加し、骨粗鬆症の有病率は 50歳以上の女性の24%、50歳以上の男性の4%を占めます。患者数は2008年には国民の約1380万人に達しており、そのうち女性の有病者が約1000万人と7割以上を占めています。骨粗鬆症が問題となるのは骨粗鬆症を背景とする種々の骨折で、脳血管疾患、高齢による衰弱に次いで、寝たきりの原因の第3位を占めるほどです。また、生活習慣病であります糖尿病、高血圧、高脂血症、ステロイド服用、喫煙、飲酒でも骨粗鬆症を悪化させることがわかっております。骨粗鬆症になると、1.椎体(背骨)、2.前腕骨(手首)、3.大腿骨頚部(脚のつけね)などの骨折を生じやすくなります。骨折の受傷原因の多くは転倒です。70歳までの骨粗鬆症の患者さんでは椎体骨折のリスクが高くなります。さらに高齢ですと大腿骨骨折のリスクが高くなります。女性の場合は閉経後に骨粗鬆症を発症することがあり、早期の診断/治療が重要です。骨粗鬆症によって背骨の骨折が起こると、徐々に背中が曲がり姿勢が前のめりになっていくことで、起立や歩行時の腰背部痛の原因となり、さらには体の軸となる筋力の低下や関節の拘縮(固くなること)を引き起こします。背骨は一ヶ所骨折を起こすと、他の背骨の骨折も起こりやすくなります。そのため、最初の骨折を予防することが非常に重要となります。また、背骨の骨折が正常に癒合せず、脊柱管(脊髄神経の通り道)に突出することがあり、それによって神経の圧迫、下肢のしびれや痛み、筋力低下、排尿障害などの症状が現れることがあります。
骨粗鬆症の治療目的は骨折の予防であり、栄養・運動・薬物療法からなります。カルシウムは骨を構成する重要な成分の一つで、カルシウムを吸収するためにはビタミンDが必要です。さらに、骨にかかわる成分としてはビタミンKやタンパク質なども必要です。したがって、カルシウムだけではなくバランスのとれた栄養を摂取することが大切です。また、治療のために必要なカルシウムの量としては、一日当たり700~800㎎がすすめられていますが、摂取のしすぎには注意が必要です。
運動することにより筋力が増強し、さらにバランス感覚が良くなり、転倒しにくくなることが期待されます。毎日のストレッチと、体力に合わせた継続的な運動を心がけて下さい。
薬物療法としては、従来からカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどの骨の栄養素や、骨が壊されることを抑制するビスホスホネートという薬が使われています。さらに、最近は骨形成を著明に促進する副甲状腺ホルモン製剤も使用できるようになり、患者さんの骨の状態によって最適な薬剤を選ぶことができるようになってきています。骨粗鬆症による骨折を防止するためには、治療を継続することが重要です。
骨粗鬆症を基礎疾患とした骨折では、背骨の椎体骨折の治療法として急性期にはギプス固定、コルセット装着による保存的治療がおこなわれ、多くの症例では炎症を抑える薬(湿布薬や塗り薬などの外用剤、消炎鎮痛剤や坐薬など)の併用によって疼痛が軽快します。しかしながら、一定期間の保存療法をおこなったにも関わらず骨折部が癒合せず、グラグラ不安定なままでいる場合は、手術的治療をおこなうことがあります。手術では、椎体形成術(骨折した椎体にセメントを充填し安定性を獲得する方法)や椎弓用スクリューを併用した脊椎固定術がおこなわれます。大腿骨の骨折では大腿骨頭置換術や骨接合術など、病状に応じて高齢者にも積極的な手術的治療が行われます。手首や上腕の骨折に対しても、ギプス固定などの保存的治療に加えて骨接合術による手術的治療が行われます。
介護が必要な状態にならないための『介護予防』、健やかに老い、豊かで活気ある老後の生活である『健康長寿』実現のためにも、整形外科を受診していただき『骨粗鬆症』のメディカルチェックを受けていただくことをお勧めいたします。村山医療センターには、骨粗鬆症の専門医がおり、また骨粗鬆症に対する検査機器も設備されており、最新の医療を提供しております。
高齢者の背骨が骨粗鬆症のため弱くなっていると、無理な姿勢やちょっとした負荷がかかるだけで骨が潰れてしまいます(『圧迫骨折』と言います)。圧迫骨折が生じると腰や背中の痛みが続き、長期間の安静を余儀なくされます。さらには骨折が正しく癒合せず、背骨のバランスが不安定になったり、曲がったりしてしまうことがあります。このような病態に対して従来は、長期間のベット上での臥床やコルセットによる治療の他、脊椎固定術といった体への負担が大きな手術をすることもありましたが、近年、特殊な手術器具と医療用セメントを用いて体の負担なく圧迫骨折を治す事が可能となりました。約1cm程の切開を皮膚上に加えて、風船のついた針を骨折した中心部に挿入し、風船(Balloon)を骨の中で膨らませた後、セメントを充填して背骨を矯正します。この手術は、専門用語で椎体形成術(Balloon Kypho-Plasty:BKP手術)と呼ばれます。この治療はこれまで自由診療や先進医療として行なわれてきた手術でしたが、安全性と有効性が認められ、平成24年の保険診療改正によりBKP手術は「経皮的椎体形成術」として正式な手術として認められました。
この手術は、血管へのセメント漏出などの合併症が極めて少なく、手術直後から劇的に痛みが改善するのが特長です。手術は通常約1時間程度で終わり、骨セメントは手術中に固まります。BKP手術はすべての脊椎圧迫骨折に対して施行できるわけではありません。急性期の圧迫骨折や背骨が大きくつぶれて扁平化してしまっている場合、神経が強く圧迫されている場合は施行できません。また、手術直後より痛みは改善しますが骨粗鬆症の背骨は治ったわけではなく、他の背骨に続発する圧迫骨折をいかに防ぐかが今後の課題となっています。
当院でも本格的にBKP手術を導入し圧迫骨折治療にあたっています。BKPの手術は認定資格が必要で、認定病院での手術実習を受講し試験に合格した医師のみが施行できます。当院では本手術が施行可能ですので、圧迫骨折による腰や背中の痛みにお悩みの患者様は担当医にご相談ください。
背中から針を刺入し、骨折した椎体への細い経路を作ります。そこへ小さな風船のついた器具を入れます。椎体の中に入れた風船を徐々に膨らませ、つぶれた骨を持ち上げて、できるだけ骨折前の形に戻します。風船を抜くと、椎体内に空間ができます。その空間を満たすように、骨セメントを充填します。
手術時間は1時間程度で、出血はほぼありません。翌日から歩行練習が開始となります。ご質問のある方は当院の脊椎班医師にご相談ください。