病気が心配な患者さんへ 村山医療センター 関節外科部長
吉原 愛雄
股関節の痛みで整形外科を受診すると、「股関節のつくりが悪い」、「かぶりが浅い」などと言われることがあります。 これらの正式な病名は臼蓋形成不全(症)(寛骨臼形成不全(症))と言います。 臼蓋形成不全は、将来的に変形性股関節症に移行することが多く、我が国の中高年女性の変形性股関節症の約80%は臼蓋形成不全が原因と言われています。
1.臼蓋形成不全(症)とは
立位の状態で骨盤から大腿骨に荷重を伝えるためには、屋根にあたる「臼蓋」が「骨頭」の直上に広い面積で覆っている方が有利です。
しかし、「臼蓋」が大きすぎると股関節を動かす際にお椀の縁が邪魔をしてしまい、動きが制限されてしまいます。
4足から2足歩行への進化の過程で、ヒトの「臼蓋」は荷重を伝えやすく、かつ大腿骨の動きを妨げない、丁度良い大きさ、適度なかぶり具合になってきたのです。
実際には、骨頭の大きさの80~90%程度の蓋であることが良好なバランスとされています。
臼蓋形成不全とは、「臼蓋」が小さいことを指します。
成長に伴い臼蓋の大きさ、形態は変化するため、「臼蓋」の発育が悪いという意味で「形成不全」と名付けられました。
図は臼蓋形成不全のレントゲンですが、骨頭の大きさに比較して臼蓋は約50%しかありません。
幼少期に何らかの股関節の病気や怪我があると股関節の発育は不良になりこのような病態を生じますが、遺伝性の場合や、原因の明らかでない場合もあります。
臼蓋形成不全の問題点は、荷重を伝達する部分の面積が小さいため、単位面積あたりの荷重負荷が大きくなることです。 過剰な負荷により関節軟骨は少しずつ傷むこととなり、最終的には股関節痛や跛行などを呈する変形性股関節症に移行します。
2.臼蓋形成不全の治療について
臼蓋形成不全があっても若いうちは軟骨の厚みは保たれていて、症状はほとんど出現しません。
しかし、軟骨の変性は少しずつ始まっていることが多く、将来的に発生しうる変形性股関節症の初期と考えることができます。
従って、臼蓋形成不全の治療は、症状の軽微な初期段階では変形性股関節症への進行予防が目的となり、既に変形性股関節症に移行してしまった場合は、さらなる進行予防と変形性股関節症に対する治療(人工股関節置換術など)を行うことになります。
変形性股関節症への進行予防の第一は、股関節周囲筋の筋力トレーニングです。
臼蓋形成不全では股関節の安定性が低下するため、これを補えるのは筋力しかありません。
一方、程度の強い臼蓋形成不全は比較的早期に変形性股関節症に移行しうるため、臼蓋を大きくする手術を行う場合もあります。
臼蓋形成不全はそれ自体が悪性の疾患ではありませんが、他の疾患と同様、早期発見、進行予防が重要です。 股関節に痛みを感じた場合はお早めの受診をお勧めします。