村山医療センター 医局秘書
アルーナ
こんにちはアルーナです。
最近では「低侵襲手術」という言葉をよく見かけるのではないでしょうか?
手術は、患者さんの悪いところを治すために、皮膚に傷を作り、体の内部を展開して操作します。そのため、組織にダメージを与えてしまいます。また、出血も伴います。
そこで、手術における患者さんへのダメージをより少なくする工夫が日々考えられています。
今回は低侵襲手術をテーマに当院の加藤貴志先生にお話しを聞いてみました。
加藤先生は防衛医大の出身であり、かつては自衛隊員としてPKO活動で南スーダンにもいかれた経験をお持ちです。現在は村山医療センターで年間約150件の脊椎手術を行う、特に低侵襲手術の専門家です。
それは傷の大きさでしょう。患者さんにとってみれば、後に残るものですから、気になるのは当然です。では、より小さな傷で行う手術が「低侵襲」といえるのでしょうか?
脊椎手術においては、傷の大きさ、出血量、手術時間、筋肉に対するダメージ、骨を削る範囲などなど、いろいろな要素が絡んできます。私の考える「低侵襲」の定義では、傷の大きさというのは、この中では最下位です。可能な範囲で小さな傷での手術は心がけていますが、手術において一番大切なのは、安全に行われるということです。
では安全に低侵襲で行える手術とは何なのか?
私の答えは、顕微鏡手術です。
すべての手術で顕微鏡を使用するわけではありませんが、多くの手術で顕微鏡を使用します。それではなぜ顕微鏡を使用するのか??低侵襲に手術ができるから??
その一番の理由は、『安全』に手術が行えるからです。
脊椎の手術は、意外に深いところでの操作となります。傷が小さいと光も入らず、暗い視野となります。また、見えにくいからと術野に覆いかぶさるように見ると術者一人しか術野を見ることができません。脊椎手術は、基本的に術者と助手、器械だしのナースの3名体制で行われます。術者だけが見えていて行われる手術が安全といえるでしょうか。
それを解消してくれるのが、顕微鏡になります。顕微鏡手術の場合、まず、術野の真上に顕微鏡をセッティングします。そこから真下に光が入り、向かい合って立った術者と助手が顕微鏡のレンズをのぞいて操作します。明るい視野が得られ、術者と助手、さらにモニターを介してナースも同じ視野を共有することができます。
よく、内視鏡との違いを質問されます。内視鏡は、カメラを体内に挿入して、モニターで見ながら操作を行います。顕微鏡手術より小さな傷で手術が可能であることが多いです。しかし、内視鏡では立体視することができませんので、深さがわかりません。顕微鏡では、立体視ができるため、深さもわかります。(顕微鏡でも、モニターでは立体視はできません。)
実はこの違いがもの凄く大きいのです。外でモニターを見ていた研修医に、実際に顕微鏡を覗いてもらうとその違いに驚きます。
『安全』に手術を行うには視野の確保が非常に重要なのです。
先にお話ししたように、光がしっかりと入るので、より小さな傷、展開で手術が可能となります。拡大してみるため、組織の境なども鮮明に見えるので、余計な筋肉に対する損傷も減らすことができます。これは同時に、出血量を減らすことにもつながります。顕微鏡手術では、拡大してみえるため、ちょっとした出血があると、逆に視野が不良となってしまいます。そのため、自ずと小まめに止血操作を行います。それも出血量の減少につながってきます。
また、良好な視野で拡大して操作が行える結果、肉眼では不可能な術式も可能となります。それが、首の「skip laminectomy」や腰の「片側進入両側除圧術」になります。いずれの手術も、筋肉へのダメージをより小さくしようというコンセプトで行われます。手術の詳細については、当ホームページの記事(以下の手術の詳細参考記事)をご参照ください。
頚椎症性脊髄症について
頚椎後縦靭帯骨化症について Ossification of posterior longitudinal ligament of the cervical spine
片側進入両側徐圧術
顕微鏡手術というとわずらわしく、こまごまとした操作で手術時間が長くなるのではないかと思われるかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。
一般的な手術と比較しても決して長くはありません。また、出血量についても、ほとんどが数mlから数十ml程度の出血で終わります。通常行われる採血検査とかわりない出血量です。これらの手術では、神経の圧迫をとるために、歯医者さんのドリルのようなもので骨を削っていきます。この骨を削る操作では、顕微鏡で拡大することにより、骨の質を見ながら削ることができるため、大胆に削れるところは一気に削ってしまうことができます。また、肉眼では危険なところまで安全に攻めていくことができるため、後の操作もスムーズに進められます。それが手術時間の短縮につながっています。
ここまで、顕微鏡手術のお話をさせて頂きましたが、顕微鏡を使用しない固定術でも安全性を重視した低侵襲手術を実施しています。腰椎椎体間固定術では、CBT法でスクリューの刺入を行っています。今までの固定術よりも狭い展開範囲での手術が可能で、スクリューの刺入方向も神経から逃げる方向への刺入となるためより安全な刺入方法です。腰椎の前方固定術では、従来よりも小さな傷でありながら、腹膜や尿管、大血管などを直視下に確認しながら実施できるOLIFを行っています。
低侵襲を追及するあまり、安全性が失われ、合併症リスクが増えてしまっては、本末転倒です。低侵襲と安全性を分けて述べてきましたが、合併症を従来の手術方法より減らすことが、最大の低侵襲の要素といえるのではないかと思います。
顕微鏡手術やCBT-PLIF、OLIFなどの低侵襲手術につきましては、一度心配なら診察を受けてください。