村山医療センター 医局秘書
アルーナ
そろそろ夏の終わりも見えてきました。
みなさまいかがお過ごしですか。
今回は腰椎椎間板ヘルニアに対する最先端治療について村山医療センター脊椎班の松林先生にお聞きしました。
アルーナ:腰椎椎間板ヘルニアに対する新しい治療法が始まったと聞きました。どんな治療法なのでしょうか。
松林:ヘルニアの発生した椎間板に新しい薬を注射し、ヘルニアを小さくするものです。
腰椎椎間板ヘルニア治療剤(製品名:ヘルニコア椎間板注用1.25単位、一般名:コンドリアーゼ)として本年5月22日に薬価基準収載され8月に科研製薬株式会社から発売となりました。
村山医療センターでは十分に慎重に検討を重ねた結果、最終的に9月の薬事委員会で承認され臨床使用が開始されました。
アルーナ:どんな患者さんに適応があるのでしょうか。
松林:まず臨床症状です。適応は“保存療法で十分な改善が得られない後縦靭帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア”となっています。
アルーナ:よくわからないのですが…
松林:一般的に椎間板ヘルニアは安静、内服などの保存的治療で軽快する症例が多く見受けられます。数日~数週間、痛み止めなどの薬を飲んで治ってしまうものが多いのです。それでも治らないヘルニアがまず対象になります。椎間板ヘルニアとは椎間板の中心にある髄核という部分が飛び出し、後縦靭帯を押し出して神経を圧迫している状態です。さらに後縦靭帯を破って外に飛び出してしまうヘルニアもあります。ヘルニコアは髄核の保水能を低下させ、椎間板内圧を低下させることによりヘルニアの臨床症状を改善させるものですから後縦靭帯を破っていないものに適応があります。それが後縦靭帯下脱出型ということになります。
アルーナ:すべてのヘルニアに適応になるわけではないのですね。どこで区別されるのでしょうか。
松林:MRIでかなりくわしく評価できます。必須の検査と思います。
アルーナ:もしヘルニコアの治療を希望した場合どうすればいいのでしょうか。
松林:まず本当に適応があるのか脊椎外科医にしっかり相談することです。ヘルニアのなかには急速に麻痺症状が進行するものもあり、数時間以内に手術治療の適応になるものもありますから、専門医に診察を受けることが重要です。麻痺が急速進行性の場合、ヘルニコアの適応はありません。
アルーナ:他に気をつけることは。
松林:20歳以下と高齢者の場合は慎重に検討する必要があります。ヘルニコアの注射後に椎間板の高さが減弱することも報告されていますので、腰椎に不安定性のある方や、変形のある方もよく検討する必要があると思います。
アルーナ:実際の手順について教えてください。
松林:当院では現在1泊2日の入院治療を推進しています。レントゲン透視室にて局所麻酔下に椎間板に細い針をさします。針の先端が椎間板の中央にあることを確認し、ヘルニコアが注入されます。
アルーナ:簡単にきこえますが…
松林:3次元的に椎間板の中央に針を進めるのは簡単ではありません。周囲に大事な神経や血管があります。また薬液が体にまったく危険がないかというとその保障はなく、アレルギー発作が起きないよう注入後30分は医師による観察が必要ですし、2~3時間は慎重に見ていかなければなりません。問題なければそっと歩くことは許されます。翌日退院となります。ある程度症状が落ち着くまでは肉体労働はさけ、コルセットなどを装着するほうが好ましいとされています。
アルーナ:やはり簡単というわけではないのですね。
松林:我々は椎間板造影という検査をこれまでも度々行ってきました。手技的にはまったく変わるもではなく、経験のある脊椎外科医なら誰でもやっている操作です。
大事なのはしっかりとした診断です。ヘルニコアの注入がそもそも必要なのか、効果ありそうなのか否か、薬でよくなってしまうヘルニアもありますし、早急に手術にふみきったほうがいい場合もあるということです。